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最高裁判所第一小法廷 平成3年(オ)120号 判決

上告人

北村豊藏

外二二名

右二三名訴訟代理人弁護士

山下潔

浜田次雄

松浦正弘

被上告人

明星自動車株式会社

右代表者代表取締役

橋本等

右訴訟代理人弁護士

南出喜久治

小林昭

主文

原判決中上告人らの営業譲渡決議取消請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

上告人北村豊藏のその余の上告を棄却する。

前項に関する上告費用は右上告人の負担とする。

理由

上告代理人橋本盛三郎、同山下潔、同浜田次雄、同松浦正弘の上告理由一について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯し得ないではなく、右事実関係の下において、昭和五九年六月二二日に開催された被上告会社の定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)の招集手続に商法二三二条一項違反の違法はないとした原審の判断は、是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。したがって、本件株主総会においてされた計算書類承認決議の取消しを求める上告人北村豊藏の本件請求を棄却すべきものとした原判決は正当であって、同上告人の上告は理由がない。

同二について

一  上告人らの本件請求のうち、本件株主総会においてされた、被上告会社の営業のうち貸切バスの営業を譲渡する旨の決議(以下「本件決議」という。)の取消しを求める部分について、原審の確定した事実関係は、次のとおりである。(1) 被上告会社は、タクシー事業及び貸切バス事業を主な目的とする株式会社であり、上告人らはその株主である。(2) 本件株主総会の招集通知には、本件決議に係る営業譲渡の件が議案として記載されていたが、営業譲渡の要領は記載されていなかった。(3) 右営業譲渡の相手方は被上告会社が中心となって将来設立する新会社であり、本件株主総会当時、譲渡の対価等の内容の詳細はまだ確定していなかったが、招集通知に同封された営業報告書には、営業譲渡の対象となる貸切バス部門の資産、負債等の内容が記載されていた。(4) 本件株主総会には、被上告会社の発行済株式七万株を有する株主三八名のうち二九名(持株数合計六万七六一一株)が出席したが、招集通知に営業譲渡の要領が記載されていないことに対して出席株主から異議の申出はなく、右出席株主のうち二七名(持株数合計五万一三〇〇株)の賛成によって本件決議がされた。

原審は、右事実関係の下において、(1) 本件株主総会の招集手続には、営業の重要な一部の譲渡について招集通知にその要領を記載しなかった違法があり、商法二四五条二項に違反する、(2) しかし、右違反の事実は重大なものでなく、本件決議に影響を及ぼさないから、本件決議の取消請求は同法二五一条により棄却されるべきであると判断し、右請求を棄却した第一審判決を是認して、上告人らの控訴を棄却した。

二  しかしながら、原審の右(1)の判断は是認することができるが、右(2)の判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

商法二四五条二項が同条一項各号所定の行為について株主総会の招集通知にその要領を記載すべきものとしているのは、株主に対し、あらかじめ議案に対する賛否の判断をするに足りる内容を知らせることにより、右議案に反対の株主が会社に対し株式の買取りを請求すること(同法二四五条ノ二参照)ができるようにするためであると解されるところ、右のような規定の趣旨に照らせば、本件株主総会の招集手続の前記の違法が重大でないといえないことは明らかであるから、同法二五一条により本件決議の取消請求を棄却することはできないものというべきである。

これと異なる原審の判断には、商法二五一条の解釈適用を誤った違法があり、この違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、その余の上告理由につき判断するまでもなく、原判決中本件決議の取消請求に関する部分は破棄を免れない。そして、右部分については、被上告会社のその他の抗弁について更に審理を尽くさせる必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高橋久子 裁判官大堀誠一 裁判官小野幹雄 裁判官三好達)

上告代理人橋本盛三郎、同山下潔、同浜田次雄、同松浦正弘の上告理由

原審判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背がある。

一 〈省略〉

二 営業譲渡の要領の記載の欠缺の瑕疵(商法第二四五条第一項第一号、第二項、同法第二四七条第一項第一号、同法第二五一条)について

原審判決は、本件招集通知に営業譲渡の要領の記載がなされていない瑕疵のあることは認めながら、その瑕疵は重大でなく、結論への影響がないとして裁量棄却を認めた。

しかしながら、営業譲渡について招集通知にその要領の記載が要求されるのは、営業譲渡の重要性と、反対株主に買取請求の機会を確保させるために招集通知において賛否の判断をするに足りる資料を供させなければならないとの見地からであるから、その欠缺はそれだけで重大な瑕疵となるというべきである。しかも本件においては、右招集通知には全く営業譲渡の要領が記載されていないのであって(そもそも未だ具体的内容は全く決まっていなかった−証人中西正勝速記録二五丁)、株主がこれをもって賛否の判断を下すことは不可能であり、右瑕疵が重大なものであることは明らかである。

なお、同期の営業報告書(乙第三号証)の中には、良く見れば「将来の健全なる発展の為に営業部門をもった独立会社の設立準備云々」「明星自動車(株)より貸切バス事業部を完全分離し別々の法人云々」との記載があるが、右営業譲渡の議案に対応して纏めて記載されている訳けではなく、営業の概況の文章の中に紛れ込まされているだけのものであって相当注意深く読まなければ分からないうえ、これとても右の程度の内容に止まっており、しかも、他方「我社の主力事業であるタクシー及び貸切バスの収益性の回復を図り、業績の向上に鋭意努力云々」等むしろ営業譲渡を前提としないような記載もあるのであって、そもそも招集通知に記載を要求される議案の要領のレベル(具体例については、商事法務研究会「株主総会ハンドブック」(初版)二二二ないし二三五頁−詳細な理由のほか、譲渡対象資産負債、譲渡価格等が記載され、通常営業譲渡契約書の写が添付されている。同「(別冊商事法務)会社の営業譲渡・譲受の実務」一〇五頁以下)に達してないことは明らかであって、これをもって右瑕疵を補うものとすることは到底できない。

また、被上告人はタクシー事業と貸切バス事業を主たる目的とする会社であり、貸切バス事業部門の方が収益力が高く(この点は被上告人も認めている)、タクシー事業部門の収益力の乏しさ、赤字を、貸切バス事業部門の収益で補ってきた関係にあるのであり(甲第八号証、第九号、乙第三号証末尾の連続損益計算書参照)、右営業譲渡の被上告人株主に及ぼす影響は極めて大きいのであって、その重要性に鑑みると、ましてや右瑕疵は重大であり、法に従って議案の要領が記載されその実情が明らかにされていた場合の決議結果に与えた影響は大であったと考えられる。

右の通りであり、到底裁量棄却はなされるべきではない。

三 説明義務違反の瑕疵(商法第二三七条ノ三第一項、同法第二四七条第一項第一号)について〈省略〉

四 招集通知内容と第一決議の内容の同一性を欠く瑕疵(商法第二三二条第二項、同法第二四七条第一項第一号)について〈省略〉

五 特別利害関係人の関与による不当決議(商法第二四七条第一項第三号)について〈省略〉

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